シューベルト:楽興の時 第6番(pf:ウィルヘルム・ケンプ)








A、B、A、Bといったふうに、同じ形をした家が順番に建ち並ぶ。
アスファルトではなく、レンガを模して美しく舗装された道路。
家並みはベージュやグレー系の彩度の低い色で統一され、
まだ分譲が始まったばかりという事もあってか、洗濯物や車などの生活感もない。
なんとなくポリゴンの画面のような単純さがある。

大井は、土曜日の新興住宅地を、比較的足取り軽く帰路に着いていた。
午後の空は薄い雲に覆われ、灰色に光っていた。

住宅地のある丘の裾を通る幹線道路が、学舎から寮への最短距離ではあるのだが、
大井はあえて坂道を登り、住宅地の中を通って帰っている。
幹線道路の喧騒を避けてのことでもあるが、この低彩度で情報量の少ない風景が、
彼女の精神に安定を与えると思えたからだ。
また、不思議なことに、大井はこの新興住宅街に懐かしさをも覚えている。

青森出身の舎友は、千葉の風景は故郷に似ていて安らぐ、などと言うのだが、
大井は海や山や田畑といった風物ではなく、むしろこのような無機質にこそ安心を感じるのだった。
量産型の風景…どこでもない街…冷たいノスタルジー…

大井は、この風景の中を全裸で闊歩する自分を想像した。
それは神話世界で遊ぶ神々の姿のようであった。
神秘そのものであった。
2018/01/25(木) 11:35 PERMALINK